棄民

「心の除染」という虚構

「心の除染」という虚構

  • 作者:黒川 祥子
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2017-02-24

 

 読んでいると腸が煮えくり返ってくる本。3.11の原発ボカンで放射能汚染されたものの、国から避難勧告される程の放射線量は記録されず、しかし子供達が原発事故前と同じ様な生活をしていたら簡単に被爆して甲状腺に異常をきたしてしまう様な地点も存在する自治体であった(ある)福島県伊達市で行われてきた棄民政策と、そこで暮らす人々のルポ。

 何に腹が立つかというと、伊達市長をはじめとした伊達市役所と福島県庁と原発の取り巻き共が、人々(特に子供達)の健康について全く心を砕かず、原発事故の被害を小さく見せかける為、そして、市の人口を減らさない為に、あれやこれや汚い策を打って放射能汚染による人体への影響を過小に評価することだ。放射線量が高い地点に住んでいる子供達が、「どうせ自分はもう結婚なんてできない」と自暴自棄になってさえいるのに。

 更に悲しいのが、最初は子供を持つ親同士で連帯して市への抗議を行っていたのに、途中から、市の政策により、放射能汚染の補償をされる世帯とされない世帯とに分断されてしまうことになり、補償された世帯の親達が、補償されない世帯の親達の悪口を言ったり、抗議活動の足を引っ張ったりする様になってしまうこと。この、補償された親達の掌の返し方は、非常に人間らしいなあと思った。

 

 本書の中には、被害者達に救いの手を差し伸べてくれる人も登場するものの、総じて、人間の醜さ、冷たさ、利己性を改めて見せ付けられる内容だった。政府や役人は勿論のこと、一般市民もまるで信用できない。信ずるに値しない、小さな生き物だ。